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十年たまごが孵るまで
あれは二〇〇七年の夏だった。
「あのさあ、俺、お前のこと好きかもしんない」
じわじわと耳に滲みるセミの声を切り裂くように、中島くんがそう言った。白いシャツの裾をベルトの上でひらひらさせて。中島くんの首筋は汗できらきら光っていた。
「気持ちは嬉しいけど」
と私は言った。十七歳。私たちは夏の真ん中に立っていた。
「そっか」
中島くんは白い歯を見せて笑ってくれた。そしてちょっと顔を下に向けて「ていうかお前、好きなヤツとかいんの?」とあくまでも素っ気なさを装ってそう訊いた。
「いるよ」
と私は答えた。中島くんよりずっとずっといい男なの。背が高くて、年上のひと。
「そっか」
とだけまた言って中島くんは肩をすくめた。じわじわ鳴くセミの声が私たちの微妙な距離の間を埋めていった。
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