5人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ。」
赤いマニキュアが華奢な指についてしまった。
「ごめんね。やっぱり私、不器用ね。桃子、本当に私がしたのでいいの?」
桃子が私に預けた手を引っ込め、指先を確認する。
伏せた目の先にくるんとカーブを描くまつげが乗っている。
なんて可愛い私の桃子。
どうしてそんなに可愛いの?
「へたっぴね。でもいいの。優香がやってくれるってことが嬉しいから。」
そう言って桃子はまた私に手を伸ばす。
柔らかい手に細い指。
華奢な関節が申し訳なさそうに、ぴんく色に照れている。
残りの爪も真っ赤に染める。
出来上がった桃子の爪。
私が不器用なせいでむらができちゃった。
「ありがとう。」
それでも桃子は嬉しそう。
そう言う頬が少し赤い。
桃子、桃子、大好きよ。
立ち上がると私より少し小さい桃子。
優しく抱くと、やわらかくてあたたかい。
「あいしてる。」
ああ、これは、耐えられない。
もっと強く抱きしめる。
「苦しいよ。」
そう言って桃子が笑う。
笑った顔が一番可愛い。
「紅茶でも淹れるね。」
キッチンに向かうと、後ろから桃子が付いてくる。
待ちきれないのかな。それすらも可愛らしい。
カップを取ろうと手を伸ばした瞬間、背中に衝撃、それから鈍痛。
私はその場に倒れ込む。
「ごめん、ごめん。愛してるの、う、う…。」
ああ、大変。そんなに顔をぐしゃぐしゃにして。
可愛い顔が台無しよ。
立ち上がろうとしたけれど、体に力が入らない。
息が上がる。鼓動が早まる。
背中から、血、血。
あたたかいのね、私って。あ、苦しい。
痛い。痛い。
大丈夫よ、桃子。
だから、泣かないで。
あいしてるから、
最初のコメントを投稿しよう!