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「あ。」
目の前にいる優香が声を上げる。
「桃子が動くから。…私にやらせて、これで満足?」
優香に差し出した手を引き、爪を確認する。
なるほど、爪の脇に赤いポリッシュがべったりと付いている。
赤い指の向こう側に、優香の年を取らない整った顔。
どうしてその中身はこんなに変わってしまったの?
「いいの。最初から綺麗さは求めてないから。」
そう言ってまた手を渡す。
また私に触る、優香の手。
昔は大好きだった、筋張って痩せた手。
優香はわかりやすくため息をついて、残りの爪を赤く染める。
出来上がった私の爪。
その不格好な赤に心臓が鳴る。
「ありがとう。」
皮肉的な感謝を聞いて、優香の目に鈍い光が灯る。
優香、優香。私のこと、もう好きじゃないの?
立ち上がると私より少し背の高い優香。
振り下ろされた拳が私の胸を打つ。
「あいしてる。」
さっきよりも強い拳が飛んでくる。
今度は頬に鈍い衝撃。
「苦しい。」
そう言って優香は肩で息をする。
その瞳に浮かぶ涙はどうしてなの。
「ごめん、お茶を飲んで落ち着くから…。」
キッチンに向かう優香の背中を追う。
赤いネイルに、あの日抑えたあの感情が再燃する。
カップに手を伸ばした瞬間、流し場から包丁を取り背中めがけて振り下ろす。
優香は虫みたいにもがいたあと、その場に崩れ落ちる。
「あ、あ、お願い。死なないで。愛しているの、う、う…。」
優香、どうしよう。本当は愛していたの。
でももう辛いの、苦しいの、あ、嫌。死なないで。
私も、私もいっしょに、あ。
体をもたつかせて優香が私の方に手を伸ばす。
そばによると私の頭を撫ぜた。
涙が、涙が止まらないの。
今いけば、あの頃の二人に戻れるかな。
う、あ、痛い。
優香、ほら、泣かないで。
あいしてる、
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