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空に一番近い場所
「はぁ~!疲れた!もう無理!動けない!」
家に帰った私は脇目も振らずにベッドを目指し、その上に身を投げ出した。
「お帰り~。お疲れなのはわかるけど、帰ってきたらまず手洗いうがいをしなさ~い」
私の同居人、キョーコはペディキュアを塗りながらそう言った。
「そんなのわかってるよー!だけど疲れたんだもん!ちょっとだけ休憩!」
「あんたそう言いながらすぐ寝落ちするんだから。ライブも近いんだから絶対に体調崩せないでしょ~?さっさと立つ!」
床に座っていたキョーコにお尻を叩かれた私は渋々体を起こし、コートを脱いでシンクに向かった。ハンドソープを両手で泡立てながら、頭の中でライブ当日までの残りの日数を数える。もうすぐ私達のグループは、ホール規模では初めてとなるワンマンライブを控えていた。
私は部屋着に着替え、電子レンジに冷凍パスタを入れた。それから、見るからにご機嫌なキョーコに声をかけた。
「さては、明日デートでしょ?」
「わかる~?そうなのデートなの」
そう言いながらキョーコは塗ったばかりの足の爪を満足げに見つめていた。キョーコの爪は綺麗なアクアブルーで、私のメンバーカラーと同じだな、と、ふと思った。
「いいなー!華の女子大生は!私もデートしたいなー!彼氏ほしいなー!」
電子レンジの中で回転するパスタを見つめながら、私はわざと大きな声でそう言った。
「別にアイドルだってプライベートでは彼氏作ったっていいんだよ?ぜっっったいにバレない自信があるならね~」
あてつけたというのにキョーコはこの余裕である。
「それはそうなんだけど!好きなものに一直線になっちゃう私が、そんな器用な事できるわけないのわかってるでしょ」
「まあ、ミサには無理だろうね。面白い程顔に出るから」
「それは自分でもちゃんと自覚してますぅ~!」
キョーコは大学生で、私はアイドル。アイドルといってもまだまだ知名度は低いけど。自分で選んだ道とはいえ、たまに無性にキョーコが羨ましくなる。
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