空に一番近い場所

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 今日はダンスレッスンからのCD予約イベントだった。CDを予約してくれたお客さんと握手をしたりツーショット撮影をしたりするのだけど、それはなかなかに体力と気力が必要なのだ。ファンの人から直接応援の言葉をもらえるのは嬉しいし、励みになる。けれど、何時間も立ちっぱなしで笑顔を作ったまま一人一人に対応するのは、正直骨が折れる。序盤は楽しくやれていたものも、終盤になると疲れが顔に出ないようにするのに必死だ。私にとっては沢山のファンの内の一回でも、その人にとっては、楽しみにしていたたった一回かもしれないと思うと。それでもSNSで「ミサミサ塩対応だったので推し変します」とか書かれたりすると、私はアイドル向いてないのかな、なんて思ってしまう。  「疲れた!もー疲れちゃった!」  「おっどうしたどうした」  いつものようにキョーコが茶化してきた。こんな風に疲れが溜まった日は弱音の一つでも吐きたくなる。  「握手の時に、今日のパンツ何色?とか聞いてくる人いてさー!」  「そんなんファンの皆に会う時はいつでも勝負の赤だよ!くらい返しなさいよ」  「私はキョーコみたいに頭の回転早くないのー!」  はぁ、お腹が空いたな。それなのに、私のパスタはまだ電子レンジの中で回転を続けている。どうして人間はお腹が空くと、こうも悲観的になるのだろう。  「ライブするのは楽しいけどレッスンは厳しいし、ダンスの先生は怖いし、休みもあんまりないし、男の子と遊びに行くことだってできない。頑張ってもブスだの下手だの言ってくる人はいるし。その癖お給料は雀の涙。もう辞めちゃおっかな~」  私は冷蔵庫の中に向かって、溜まっていた不満を吐き出した。私の言葉は、こざっぱりとした冷蔵庫の中に吸い込まれた。  「いいんだよ~?辞めたかったら辞めても。アイドルになりたい子は山ほどいるし、あんたの代わりなんかいくらでもいるんだから」  キョーコはそう言って意地悪そうに笑った。  「……いじわる!」  「おーコワ!八つ当たりはやめてよね~」  電子レンジがピーピー鳴いて、私たちの会話を遮った。  私はキョーコが本気でそう言ってるわけじゃないことをわかっているし、キョーコは私が本気でアイドルを辞めたがっているわけじゃないことをわかっている。
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