空に一番近い場所

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 アイドルになりたいと思ったのは高校生の時。休日のショッピングモールで、たまたまやっていたDreaming Girlsのフリーライブを見た私は、雷に打たれたような衝撃を受けた。彼女たちはあんなに全力で歌って踊っているのにずっと笑顔で、キラキラと輝いて見えた。アイドルなんか「所詮アーティストになれない顔が良いだけの女の子」程度にしか思っていなかった私の価値観は180°ひっくり返って、その日から私の光になった。それはまるで、恋に落ちたようだった。  来る日も来る日も彼女たちの出演するテレビ番組をチェックし、リリースイベントがあれば必ず参加した。ライブツアーはお年玉とアルバイト代をつぎこんで一人で地方に遠征したりもした。彼女たちへの強い憧れは、次第に私の夢になった。  「そういえば、今日のおしゃれリズムのゲスト、櫻井かのんじゃなかったっけ?」  キョーコは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、そう言いながらこちらを振り返った。  「えっ!今日だっけ!?それを早く言ってよ!!」  キョーコの言葉を聞いた私はパスタを食べる手を止めて、慌ててテレビをつけた。おしゃれリズムは毎週異なるゲストを呼んで、軽快なトークを繰り広げるトーク番組だ。以前ならDreaming Girls、通称ドリガのメンバー出演番組は全て手帳に書きこんでいたのだけれど、最近は忙しくてチェックがおろそかになっていたのだ。  私が急いで番組にチャンネルを合わせると、真っ白なスタジオが映った。淡い水色のワンピースを着た櫻井かのんはその中央にある真っ赤な椅子に腰かけていた。余所行きの笑みを浮かべたその顔は、いつもよりも緊張しているように見えた。  「かのんちゃん可愛い~」  櫻井かのんはドリガのリーダーで、私がアイドルを目指すきっかけになった張本人だ。つまり、私の理想であり、目標であり、私の推しだ。
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