空に一番近い場所

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 「どうやらライブ映像もあるようですね。それでは、どうぞ!」  画面はスタジオの映像から切り替わり、ドリガのライブ映像が流れ始めた。  「空色担当、リーダーの櫻井かのんです!」  右手でマイクを持ったかのんちゃんは、左手を高く上げて、会場内を見渡しながら左右に大きく手を振った。  「あっ!?この映像、何気に地上波初出しのやつじゃない!?」  食い入るようにテレビ画面を見つめていた私は、思わず心の声がダダ漏れになってしまったのだけど、キョーコが「へー、そうなの?」と返してくれたことによって、私の大きな独り言は独り言にならずに済んだ。  ドリガはつい先日ツアーファイナルを迎えたばかりで、映像はその時のアリーナ公演のものだった。チケットは押さえていたけれど、仕事が入ってしまい結局私は行くことができなかった。  「みんなー!最後まで楽しんでいってねー!」  かのんちゃんは画面の中でファンの照らすペンライトの光に包まれながら、眩しい笑顔を見せていた。それは紹介用に編集されたVTRで、映った時間は短いものだった。だけど、この液晶も、時間すら隔ててもなお伝わってくる彼女の思いに、私の心は揺さぶられた。  ああ、そうだった。別に私の顔も名前も覚えてくれなくったっていい。ライブ中にお手振りも指差しもいらない。可愛くて、キラキラで、ただ、見ているだけで幸せで胸がいっぱいになる。私もこんな素敵な女の子になりたい。おこがましいかもしれないけれど、私もこんな風に誰かを幸せにすることができたらって。  番組の最後、司会者はかのんちゃんに将来の夢を聞いた。かのんちゃんは少しも言い淀むことなく、とびきりの笑顔でこう答えた。  「私は一生ステージの上で歌って踊っていたいです!何歳になっても、ずっとずっとステージに立ち続けたいです!」
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