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阿蘭陀商館長主従を守れ
この佐々木邸の枝折戸は見た目以上に傷んでいるので扱いは慎重にしなくてはならない――。
そう心得ている#太一郎__たいちろう__#は、丸々と太った体を俊敏に動かして枝折戸を通過した。
通過してからそっと振り返ると、枝折戸は怪しく不規則に揺れている。
「頼む、持ちこたえてくれ……」
思わず声に出してつぶやいてしまった。
これを壊すと、この屋敷の住人に――ことに、修復を担当する次男坊・#英次郎__えいじろう__#に――さんざん文句を言われるのだ。
文句だけで済めばいい。うっかりすると、戸をすぐに直せと刀を突き付けられるかもしれないし、真新しい戸を直ちに持ってこいなどと無茶を言われるかもしれない。
やくざ者を平気で脅す御家人の次男坊など、お江戸広しといえどもそうそう居るものではない。
そんな太一郎の胸の内を知っているのだろう、枝折戸は哀れな声を上げながらも元の位置へおさまってくれた。
「よしっ……いいぞ……」
たっぷり呼吸三つ分枝折戸を見つめてそれ以上の変化が無いことを確認した太一郎は、急いでその場を離れた。向かう先は、佐々木家の庭だ。
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