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うたた寝
「ホワイト。君は、景色も楽しまないうちに列車を降りるつもりかい?」
愛しい男の声で私は目を覚ました。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
けれど彼は、私を咎めることなく木枠の車窓の外を指さした。
「とても、綺麗な場所ね」
柔らかな草が列車が通る度に、風にあおられ揺らいでいる。遠くに見える緩やかな曲線を描く山々を、私はとても気に入った。
「私達の新しいお家は、あの辺りかしら」
「そうかもしれないね」
「ティーセットが広げられるお庭はあるかしら」
「きっとあるよ」
私の他愛もない話に、彼は上手く相槌をうつ。
「あなたは、どんなお家がいいの?」
「そうだね……。君が幸せになれる場所ならどこでも」
こんなことが言えるのは、お互いがまだ若いからかもしれない。
きっと私が、よぼよぼのおばあさんになったら、今日のことを思い出して、恥ずかしくなるかもしれないわね。
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