親子酒。

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先輩の家に転がり込むも、バイトもなかなか見つからない。 このままでは、先輩に迷惑をかけるばかりだ。 そう思い、俺は朝から職場探しに奔走した。 先輩は、 「気にするな。自由に暮らしていても問題ない。」 などと言ってくれたが、俺自身、それでは納得できなかった。 両親に養われ、『自分』を持たないまま上京し、先輩の元でも同じように生きるのが嫌だった。 職場探しは、おそらく俺の人生で一番、必死になったことかもしれない。 そんな俺は、ひとつの職と出会った。 「……下駄、職人……。」 俺とそんなに変わらない世代の女性が、老人とふたりで黙々と下駄を作る。 たまたま訪れた下駄屋。 売り場の華やかさとはかけ離れた、奥の間の工房。 売り場の開きっぱなしの扉からその様子を垣間見た俺は、一気に『職人』の世界に惹きこまれた。 思えば、俺もバカだったと思う。 「俺を……弟子にしてくれませんか?あなたたちの技に、惚れました!」 突然、見も知らぬ赤の他人の弟子になろうとしたのだから。
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