ぼくのなかの さかな

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「ねぇ、ここの生きものたちは、みんな体に水を溜め込んでいるんだね」 「そうだよ。実はぼくらの頭のてっぺんには、小さな穴があってね。そこから雨が少しずつ入っていくのさ」 冷たい雨が、ぼくの頭のてっぺんの穴から入り込む。ぼくのなかの水面が揺れて、魚は小さくはしゃいだ。 ぼくは、向こうにいるぼくと同じかたちをした生きものを指さした。その生きものは、壁に自分の手首を打ち付けて、小さなヒビをつくっていた。 「ほら、あそこの生きものを見て。ああやって、水を外に流しているだろう。そうして、適度に体を空っぽにするんだよ」 「体にすきまをつくって、外に出しているね」 「でもあれ、痛いんだよ。ぼくはやりたくないなぁ」 「君は、水が溜まったらどうするの?」 「ううん、まだわかんないや...。昔は、お母さんが傘をさしてくれていたけれど」 「傘ってなぁに?」 「傘っていうのはね、あれを見てごらん」 ぼくはくるりと首を回して、さっきとは反対の方向を指さした。その先には、ぼくと同じかたちをした2つの生きものが、丸いおわんのような形をした物の下に寄り添っていた。 「なるほど、ああやって、雨をふせいでいるんだね。大きいのと、小さいの」 「そうだね。大体は、大きいものが小さいものに傘をさしてあげるんだよ。大人になったら、傘の作り方がわかるって聞いてたんだけど...」 「君はまだ、わからないの?」 「そうなんだ。ぼくはもう、大人になったはずなんだけどなぁ」
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