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大人の包容力を滲ませてこちらを見てくる様子に一度目を閉じる。
この人の事は別に嫌いではない、寧ろ王子の中では一番接しやすく好意的だ。
けど、けど…!
さりげないスキンシップに問題があるのだ。
父親の如く褒める時、慰める時は頭を撫でたり、何かを頼む時は肩を叩いたり…気さく過ぎて困る。
扉を開けて廊下に出ながら先程さらりと撫でられた頭に手を乗せる。
「──そういえば」
複雑な私をよそに、鍵を閉めたオリヴァー王子がこちらに向き直って言葉を漏らす。
「あいつ、セドリックを見なかったか?探して連れてくるよう頼まれてなあ、図書室の方に行ったってのは聞いたんだけど」
「…セドリック王子なら、少し前に出て行きましたよ。さっきの三人が来る前に」
「やっぱりそうか。…ん?お前さっきの見てたのか?」
聞かれた事ににこにことした表情で返答するも、次いで首を傾げたオリヴァー王子に言葉に詰まる。
今のは失言した。
折角、先程のあの現場を見ていたのかという事について触れられなかったのに、自ら暴露しに行っているようなものだ。
「……その、物音が聞こえたので気になって」
「ああ、別に咎めてるわけじゃねえよ。寧ろ、変に出て行ってお前が巻き込まれでもしたら、被害が拡大してた」
それはそうだろう。
リリアーナだけでなく、私もあらぬ噂が立ち始めているのだ。
あそこに私が出て行っていたら、ついでとばかりに私にまで被害が出ていたはずだ。
オリヴァー王子の言葉に軽く頷く。
「そうですよね。…でも、黙って見ているのも複雑で…オリヴァー王子が来なかったら、庇いに出ていました」
これは事実だ。
私は拳を握ったいじめっ子を見た時、一歩足を踏み出してしまっていた。
オリヴァー王子が止めに入らなかったら、後先考えずに突っ走っていただろう。
「…お前は優しい奴なんだな」
「……え?」
告げられた言葉に違和感を覚えた。
やさ、しい…?
何かが間違っている気がする。
………あ。
顔を上げたと同時に視線が交わったオリヴァー王子の柔らかで温かい目を見て、漸く気付いた。
私、悪役。
悪役、こんなこと言わない。
つまり───やらかした。
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