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聞き間違いでなければ、お茶会に連れて行くとか聞こえた気がする。
是非とも気のせいであってほしいものだ。
聞かなかった事にして帰ってしまえばいい。
「それじゃあ、みんな待ってるし行こうか、子猫ちゃん達」
「や、や」
「ん?どうしたんだい?」
有無を言わせない圧を掛けられて唇をキュッと結ぶ。
腕を引かれて空き教室を出ながら、私はキッとセドリック王子を睨みつけた。
「…セドリック、フェニーちゃんに何をしたの?」
「何だろうねえ。私は何かをした覚えはないんだけど、知らないうちに随分と怯えられてしまったみたいだ」
「本当に何もしてないの?すごく、睨まれてるけど…」
「んー、身に覚えはないかな」
リリアーナとセドリック王子が話している間、腕を離そうと抵抗を試みたものの、その努力は無駄に終わってしまった。
男と女じゃ力の差があるから仕方ない…なんて諦めてたまるか!
お茶会になんか参加するつもりはない。
最近、女子生徒達から取り囲まれて罵倒されるようになってきたからマジでやめてくれ。
物言いがきつい子ばかりで精神抉れてきてるから、ほんと。
「ねえ、子猫ちゃん。そろそろ抵抗を諦めてくれないかい?」
「ひ、っ」
唐突に顔を寄せて来たセドリック王子に悲鳴にならない声が上がる。
今の一瞬で全身に悪寒が走った。
ぞわぞわぞわぞわ。鳥肌がすごい。
自分でも、何故これほどまでにこの人が苦手なのか分からない。
気付いたら拒否反応と苦手意識が定着していた。
恐怖心、又は驚きからなのか、体の力が抜けてしまい腕を引かれるままにふらふらと着いて行く事しかできない。
抵抗して、また顔を近付けられでもしたら今度は腰が抜けてしまいそうだ。
「優しく言ったつもりだったんだけれど、子猫ちゃんには私がどう見えているのかな」
「……」
こわいひと、それだけだ。
眉を下げて苦笑するセドリック王子から、ゆっくりと顔を背ける。
この人が優しいのは知ってる。
けど、それだけじゃないって事も知ってる。
本心も、考えてる事も、何もかもあやふや。
そんな人の傍に居て、心から安心できるわけがない。
私はぐっと唇を噛むと、言いたい事を全て飲み込む事にした。
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