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「うわっ!? ど、どうしたんだよお前ッ!」 「だって……最後のって。そうだよもう卒業式で、シズルに会えなくなるって、思ったら」 「は!? なんでそう――ていうかちょっとやめろ、僕のベッドが濡れる!」  僕は慌てて、ベッドサイドにあったティッシュを――昨夜、情事で大量消費したそれを取り、タツキの顔を拭ってやった。それでもとどまることを知らず、とうとう顎から雫が墜ちる。  タツキは洟をかんだ。 「う――……かっこわる」 「ほんとだよ。昨日あんだけ強引に押しかけて来たくせに」 「それは、だって、それは」 「男前ヅラが台無しだ。どうしたんだよ、らしくない――」  と、言いかけて口をつぐむ。  僕よりも十センチ背が高く、二十キロは大きな体で、子供みたいに泣くタツキ。  ……もしかしたらこの姿こそが、彼の真実だったのかもしれない。    ――そうだ。三年前――あのときも。彼はグシャグシャに泣いていた。  放課後、もう薄暗くなった教室で、僕はふと物音を聞いた。部活動時間もとっくに終わって、校舎には誰も残っていない。しかし確かに、ガンガンッと金属を叩くような音が聞こえたのだ。  誰かいるのか? と、呼びかけながら見回す。教室のすみっこ、ガタガタ揺れる掃除道具入れ。……ガムテープが巻かれている!  僕は大急ぎでテープを剥ぎ、金属の扉を開いた。飛び出してきた少年は、両手足を縛られ口をふさがれ、あげくに下半身が裸だった。ひんひん泣きながら、僕の胸に縋りつく。クラスで誰よりも小さくて、女の子みたいな十五の少年――僕は彼を抱きしめて、泣き止むまでずっと、その背中を撫で続けた。  ――そんな、古い記憶を掘り起こし――  僕は深々と嘆息した。 「あのころのタツキは、小さくて可愛かったなあ……」 「三年で35センチ背が伸びた。俺も、ここまで大きくなるとは思わなかった」  笑うタツキ。まだ瞳は濡れていたが、キリリとした眉の、男前づらに戻っている。ほんと、ずるいよ。詐欺だ。こんなの誰が予想できた?
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