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あの頃のタツキは本当に、小さくて可愛かった。小動物みたいにプルプル震えて、僕にラブレターを押し付けるあの姿。「お、おね、いおがおねおね、お願いします、つつつ付き合ってください」――こんなの、笑っちゃうじゃないか――可愛すぎて。
年齢よりも、幼く見えるタツキ。可愛い少年。たぶん、恩義と恋愛感情を取り違ってしまったんだろうなと僕は思った。
ああそうだ、当時の僕は、あまりに軽率だった。彼の気持ちを軽く考えすぎていたんだ。
「そうだなあ。もし三年後、まだ僕を好きでいてくれたなら考える」
――なんて。
「……ほ、ほんと? 卒業したら、もう一度告白してもいいの? もう一度、好きだって言っても怒らない?」
「ああ、待ってる。だからそれまでにいっぱい友達つくって、一生懸命勉強して、イイ男になりな」
――なんて。
なんで、あんなこと言ったんだ。ああ馬鹿、馬鹿。僕の馬鹿!
本当に僕は大馬鹿者だ。
頭を抱える――と、その腕ごと、タツキが体全部つかって抱きしめた。僕を慰めるように、あるいはすがりつくようにして。
「……ごめんな。シズル」
「…………なにを、今さら……」
「俺も、本気にしてたわけじゃないんだ。はぐらかされただけだってわかってた」
タツキは目を細めた。僕の顎をもちあげて、唇を重ねてくる。
「約束しただろって強迫みたいに押しかけたのも、抱きしめたのも、キスをしたのも」
恐る恐る――剥き出しのヤケドに触れるみたいに、そうっと。
「……ごめんなさい。最後の日に、好きだと言えたらそれでよかった。押し倒すつもりまではなかったんだ。それなのに……。ごめん。最初で最後。一度だけでもシズルを抱けて、俺は、もう」
タツキが身を離す。僕は、その首を捕まえた。
思い切り体重でひっぱって、ベッドに引きずりこんでやる。体格差があったってこっちも男だ、不意打ちして本気を出せば、タツキを押し倒すくらいできるさ。
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