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#9
午前三時、僕は酔っていた。飲み物を買いに、近くの自動販売機へ向かう。財布から出した百二十円は百十円だけ吸い込まれて、一枚は足元の暗闇へ消えていった。消えていったということを気付かないまま、また財布から十円玉を出して自動販売機に吸い込ませる。都会では百四十円の乳酸菌飲料を百二十円で買い、マンションのエレベーターへ向かう。エレベーターへ続く階段の前で、二人の男女とすれ違った。とても暗くて確認できたのは、男が売れないバンドマンのような茸みたいな髪型をしていた事と、その二人がペアルックだったってことだけだ。エレベーターの前の階段の手すりにもたれかかってその二人を見ていた。俺が買った自動販売機と同じところでジュースを買っていた。女が財布を取り出しているところを見て、とても安心感を覚える。部屋に残ってるコーヒーの事なんか考えずに乳酸菌飲料を一口飲み込んだ。
偶然エレベーターは明かりが付いたまま一階に止まっていて、その二人と同じマンションに住んでる事が分かった。その二人と同じ所に住んでいる、同じ所に居るということだけで、自分で自分をいたたまれなくなった。せめてもの報いにとエレベーターを降りるときに乳酸菌飲料を床にぶちまけた。ブスとヤった時に、わざと洗い流しにくい髪の毛にぶちまけるように。
部屋に戻った僕は何とも言えない幸福感と達成感に包まれていたが、あと一口のコーヒーを見て眠りにつくことを決めた。
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