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ビールを胃の中に流し込む。舌では味わわずに喉に流れる強い炭酸と、胃から湧き出てくる麦の匂いを楽しむ。ふと気になって味を確かめてみた。舌で感じとれたものは何も無かった。ただ軟口蓋で海苔が張り付くようにしてえぐみが広がった。まだ子供なんだと苛立ってすぐ飲み込んだ。 昔テレビで見たことを思い出した。なぜ大人がビールやコーヒーが飲めるのか。舌が劣化して正しい味を認識しなくなるかららしい。 僕は怒りが嫌いだ。昔からふと現れて、気付いたら消えるその存在が。怒りなんていう感情はあっても邪魔になるだけで、プラスになる事なんて一つもない。 成長していく上で怒りを殺す技を身につけた。フッと沸き立った怒りを抑えて、しばらくすると息をしなくなる。いろんな経験を積んだ大人が怒っているのを見たことが無いのは、感情を殺すのが上手くなったのだろう。 舌も感情も劣化していけば、自分の弊害となるものが少なくなる。とても良いことだ。でも苦味や怒りは確かにそこに存在していて、忘れられるために生まれたのだろうか。大人になれば大切なものを忘れていく。 僕は今、その狭間にいるんだろう。こんなことを考えたことも忘れて大人になっていくんだろう。
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