#5

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#5

いつもより少し長くドアが開いていた。気になって周りを見渡してみると車椅子の乗客がいた。ドアを背にこちらを向いていた車椅子の男と目が合った。何かわからない罪悪感に追われ軽く会釈をする。男は器用に回転して、四号者の端っこにいるサラリーマンに、手話で必死に何かを伝えようとしている。 車内はみんな俯いてスマホをいじっている。 手話で必死に何かを伝えようとしている。 全く車椅子に気付かずに。 手話で必死に何かを伝えようとしている。 小さい画面に夢中な乗客に苛立つと同時に、何もわからない自分がとても情けなかった。 その静かでとてもうるさい車内の光景に漠然と恐怖を感じて三駅早く降りた。やっぱり何もできないような自分なんだと身に沁みた。
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