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四曲目を終えた後、口裏を合わせてたかのようにアンコールが鳴る。漸くすると暗闇にも目が慣れてきて、黒い物体の表情が読み取れた。楽しそうな顔をしているのは二十人弱だったが、割合で見れば多い方だった。ドラムがいつもより強めのカウントダウンをして最後の曲を演奏する。前を向いていた所為で分からないが、どうせ間抜けな顔でハイハットを叩いていたのだろう。結局最後に持ってきた一番自信のある曲もテンポが合わずに終えた。 この日一番の拍手を貰った。当然だ。初めてのライブで身内を大勢呼んでいる。とても恥ずかしくて、舞台を捌ける時自分がどんな顔をしていたか今でも思い出せない。座る場所もない控え室で、清々しい顔をする二人に合わせて僕も表情を変えた。それがドアの小窓に映って清々しいくらい吐き気がした。 ライブは終わり、外で話をしていた。時間を忘れて喋っていた。機材の撤収を終えたライブハウスのおっさんが煙草を吸いに外に出てきて、僕達の方を見るなり近付いてくるのが分かる。気付いていないドラムをベースが引っ張って挨拶をしに行った。 「初めての割にはいい顔してたじゃん」 ベースがドラムのTシャツの後ろ身頃を引っ張って無理矢理お辞儀をさせた。結局褒めてくれたのは間抜け面だけだった。 彼女と楽しそうに帰る二人を置いて、家から徒歩七分にあるTSUTAYAの黒い幕をくぐった。
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