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その姿は、さながら芋虫だった。
それは、多種多様な死肉の集合体だった。地上の激戦で殺され、捨てられ、地下世界へ流されてきた無数の人間の死体や魔物の残骸が、ナアマを核として集合体になったのだった。
無数の紫色の血管が全身に走る芋虫の太く短い胴体に、ナアマの頭と両腕が生えている。ブヨブヨとしたその体は、濁って腐った緑色の体液を撒き散らしている。
「おにいちゃん」
肉片をこぼし、体液を壁面に擦り付けながら、妹はトバルへずるずると迫った。そして、その両手を伸ばして兄を掴まえると、自分の視線に合うように持ち上げた。
「おにいちゃん」
ここに至って、トバルの心は、穏やかそのものだった。村にいた頃、暖炉のそばで二人で寛いでいたように、穏やかな声で話しかける。
「ナアマ。お前を捨てて行って悪かった。許してくれ」
妹は、静かに兄を見つめていた。その目は春の湖の水面のように澄んでいる。
「おにいちゃん」
トバルは、息を大きく吸って、また大きく吐くと、決心したように言った。
「ナアマ。私はお前を愛している。この世の誰よりもだ。もうお前を捨てたりしない。お前といつまでも一緒にいたい。お前は、私を許してくれるか?」
「おにいちゃん」
ナアマは、両手でトバルを掴んだ。そして、愛おしげな表情を浮かべて、まず兄の頭部をビスケットを食べるように齧ると、次に胸と両腕、その次に腹部、最後に腰と両足を、バリバリと音を立てて噛み砕き、そして満足そうに飲み込んだ。
「おにいちゃん……」
ずりずりと、巨体が擦れる。ナアマは切なそうに兄を呼んだあと、その芋虫の体を大儀そうに引き摺って、地下水道の暗黒の彼方へと姿を消した。
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