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それからは、また苦闘の日々の繰り返しだった。空から迫る魔竜と有翼魔獣、地から這い出てくる蜘蛛型妖魔。いずれも何とか退けたが、気力体力共に彼はもう限界だった。
ある廃村の広場で、トバルは荒い呼吸をしながら、全身を地面に投げ出していた。一週間近く、水も食も口にしていない。手は萎え、足は一歩も動かせない。魔法を放つことも、死体を運ぶこともできない。
耳をつけた地面が、魔物が放つ独特の振動音を伝えてくる。どうやら、魔王軍がここに来るのも時間の問題らしい。
死体を見るトバル。ナアマはただ寝ているだけのようだった。可愛い寝顔。これまでの長い旅の中で、妹に対する愛情は増すばかりだった。彼はなんとかして、妹を故郷に連れ帰りたかった。
しかし、もう妹を運ぶことはできない。ならば、骨だけでも持って帰るべきでは? 火葬して、妹の遺品の黄金の小壺に香油を満たし、それに遺骨を納めたならば?
トバルは杖を構えた。そして、ブツブツと魔法を詠唱し始めて、それを突然やめた。
彼の心はその時、ある疑念に満たされていた。あの民家、あの絶叫が、彼の脳内で蘇る。
もしも妹が生きていたら? 呪文を掛けたら妹が絶叫して起き上がり、生きたまま炎に焼かれて灰になっていく……
逡巡し、杖を下げたその時だった。村の入り口から雄叫びを上げて、魔王軍の剽騎兵三騎が突入してきた。トバルは咄嗟に射撃魔法を連発し、何とか三騎を仕留めた。
だが、この襲撃と突如沸き起こった恐怖感が、彼を最後の決断へと促した。
時間がない。妹の死体をどこかに隠そう。
お誂えむきの場所があった。それは、村の共同井戸だった。半壊し、水も枯れているが、死体を隠すにはちょうど良い。トバルは、恐怖に震える手で妹の死体に縄をかけると、それを操って井戸の底へ彼女だったものを下ろし始めた。
不思議とこの間、魔王軍の追撃はなかった。だがその分、トバルを襲った恐怖感は尋常なものではなかった。もしこの間隙を襲われたら……? 彼は何度も後ろを振り向き、妖魔がいないか確認した。
死体は無事に井戸の底に下ろせた。トバルは土魔法で井戸の内壁を崩壊させ、死体を完全に埋没させた。
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