作家の恋

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 勇が言うなり、真梧は音をたてて先端をこれ見よがしにしゃぶった。張り詰めた熱をもてあそぶように、真梧の舌が這い回る。  その懸命さゆえに、たまらなくみだらだ。勇はより深く自身を真梧にくわえさせた。苦しげに喉の奥でうめく声も、いい。 「もう出すぞ」  そう言うと、真梧はできる限りの刺激を勇に与えようと舌を使い、すでに唾液と勇の体液でべたべたになっている根元も同時に指で扱く。  う、と勇が思わずうめいた瞬間に、すかさず顔を離す真梧。真梧は自ら、勇の白をその顔に受け止めた。 「やってみたかったんだよね」  べったりと白で汚れた、罪のない笑顔。こいつは楽しんでいる、と勇は半分呆然としながら思った。周りが自分に抱くイメージと現実とのギャップを、たぶん本人が一番楽しみ、もてあそんでいる。 「どうしたの?」  まつげについた白を気にしながら、首をかしげる真梧。 「いや……。いい眺めだ」  AVのようなセリフをようやく吐き出して、勇は笑ってみせた。  本当はすべて、見透かされているのかも知れない。無邪気ささえ感じさせる笑顔を見ながら、勇はぼんやりと畏れに似た気持ちを抱いた。  顔についた白を拭こうともせずに、真梧は甘えるように勇の手を握る。 「勇さんて、言うほど悪い人じゃないよね」  いかにも愛しそうにゆっくりと勇を抱きしめる、しなやかな腕。 「ね、続きは?」  やっぱり、見透かされているのかも知れない。真梧の文章が澄みきっているのは、優れた観察眼で純粋な本質だけを取り出しているからだ。 「ゲラのチェックはいいのか?」  真梧にティッシュペーパーを渡しながら、勇は言う。  あの文章が、才能があるからなおさら、勇は真梧に欲情する。だから時にはこうして、今腕の中にある肉体よりも、ダイニングのゲラが気になってしまう。 「なんで時々、そういう水差すようなこと言うの?」  真梧は勇を甘えるように見る。勇がただ無言で苦笑してみせると、真梧は不服そうな顔で勇の手を両手で大事そうに握った。 「すっきりして、それからやるから大丈夫だから」  言いながら、子供のように勇の手を揺らす真梧。上目遣いの笑みがあやしげな色気をまとう。  性行為の後であの文章に手を入れる姿を、勇は真梧とこの部屋でそれなりに長い時間を過ごしていても、想像できなかった。というより、あまり想像したくない。
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