作家の恋

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 そんなことを思う自分が、おかしい。 「なに笑ってんですか」 「お前、セックスするからって、風呂入ったんだろ?」  ぐっと勇をにらむ真梧の顔が赤らむ。 「ここの風呂は広いし、何日も入ってなかったからです」  生真面目に答える真梧。勇は声をたてて笑い、真梧が避けようとするのを押さえつけて無理やりキスした。 「あのな、俺は人を誘っといて平気で連絡もなくすっぽかす男だぞ」 「それはいばることじゃありません」  語尾に重ねるように即言い返す真梧。怒るとすぐ敬語になる。その分かりやすさがいい。 「嘘だと思ったら、それとなく周りに聞いてみろ。約束をすっぽかさないなんて、奇跡だって言われるぞ」  勇は楽しげに言い、真梧の髪をなでた。 「そんなの信じません」  そうは言いつつも、もう真梧は勇を許し始めている。髪をなでる勇の顔をちらりと上目遣いでうかがう、大きな切れ長の瞳。 「テーブルに置いてあったゲラ、雑誌か?」 「明日校了です」  そうか、とだけ言って、勇は真梧を組み敷いた。かわいいヤツだ、とまた思った。  ボディーローションの甘すぎず涼やかな香りは、真梧によく似あう。その香りを、勇は真梧の首筋を舌先でなぞりながら味わった。何度も、しつこいほど舌先を往復させる。 「ん……」  もそもそと恥ずかしげに抱きついてくる真梧。Tシャツ越しに、胸の突起のささやかな硬さを感じる。  性欲とは距離を置いていそうな顔をして、その実真梧の身体は、快楽に敏感で貪欲だ。奥底に潜んでいた情欲を引きずり出した本人である勇も驚くほどに。 「キス、して……」  したたる声。望むままキスしてやると、真梧は身体を勇に何度もこすりつけるように動きながら、激しく求めてきた。押しつけられる欲情はすでに、硬く熱くなり始めている。  決して世間が知ることのない、このギャップがたまらない。勇は乱暴にTシャツを脱がせ、真梧の胸の突起を両方同時に責めた。 「あ、あっ……」  胸を責めながら、勇は耳や首筋への愛撫も執拗に繰り返す。 「ああ……。勇さん……」  うっとりと幸せそうにつぶやいて、真梧は勇の欲情に手を伸ばす。勇の顔を甘えるような瞳で見ながら、それを扱く。目があうと、どちらからともなく軽いキス。 「久し振りで、ここは大丈夫かな」  真梧が与えてくれる快感が、羊水のように身体を包む。安らぎさえ感じながら、勇は真梧の後ろに手を伸ばした。
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