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また一つ、嘘をついてしまった。
「サチ、今日帰りに駅前の新しいカフェ行こうよ!パンケーキがすごく美味しいんだって。」
放課後のことだ。
私が誘うと、彼女はうーんと少し悩ましげな表情をした。
「アイ、ごめん今日はやめとく。」
「そっか…。」
しゅんとする私の頭をサチはぽんぽんと撫でた。
「悪いなアイ、次は一緒にいこう?」
困ったように彼女は笑う。
小さい子をあやすようなその態度に私がむくれていると近くにいたクラスメイトがクスクスと笑った。
「もう、なんで笑うの?」
「だってなんか会話がカップルっぽいんだもん。」
私とサチは目をパチクリさせた。
しばしの沈黙の後、サチは急にニヤリと笑みを浮かべるといきなり私の口元に口づけた。あともう少しで本当に本物のキスになってしまうというギリギリのところを狙った計画的犯行だ。
周囲が一瞬どよめく。
ペロリと舌を出して彼女はいたずらっぽく言った。
「アイならいつでも大歓迎!」
じゃあね!と手を挙げて彼女は颯爽と帰っていった。
私は火照りの引かない頬を持て余しながら、彼女の遠ざかる後ろ姿を眺めていた。
「わーお、相変わらず大胆だね王子は。」
ヒューと茶化すように親友のミカが声をかける。
惚けている私を面白いものでも見るようにじぃっと眺めると、彼女は私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「いじけるなよーアイちゃんはかわいいなー。
お姉さんでよかったらカフェでもなんでもデートしてあげちゃうよ?」
「もうミカ、セクハラ!
でもデートはして!甘いもの食べたい!」
「よーしよしよし、いい子だ。じゃあ行くよーお姫様。」
わがままだってなんだって、こういう時には平気で言えるのに。どうして彼女相手だとこんなにもうまくいかないのだろう。
本心を伝えられないことが本物の証なのだとしたら、この行き場のない潜熱は一体どうすればいいのだろうか。
悪い魔法にでもかけられたかのような気分で下駄箱に向かうと、先ほど出ていったはずの彼女が誰かと歩く後姿が目に入った。
「サチ…?」
私が思わず声に出すと隣にいたミカも気が付いたようだ。
「あれ、本当だ。どこ行くんだろう?」
ミカが面白がってついていくので私もそのあとについていくことにした。
たどり着いたのは人気のない裏庭だった。
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