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「あの…サチ先輩、今日はお時間いただいてありがとうございます。」 相手は見知らぬ女性徒だった。先輩と言っていたところをみると新入生なのだろう。 よく手入れのされた髪が艶やかになびいている。私なんかよりも余程綺麗な人だった。 「サチ先輩、覚えていますか?入学式の日、貧血を起こしていた私に気が付いて助けてくれたこと。」 そういえばあの日、サチが新入生の女の子を保健室に連れていっていたような気がする。 そうか、あの時の彼女か。 「あの時のことがずっと忘れられなくて。私は初めて人を好きになるって気持ちを知ったんです。」 やめて、その先は言わないで。 「サチ先輩。私先輩のことが好きです。私、本気なんです。」 彼女はその白く小さい手でスカートの裾をぎゅっと握りしめていた。 サチはそんな彼女を伏し目がちに見て、その答えを考えているようだった。 ツンとする冬の冷たい空気の中、その沈黙はしばらく続いた。 サチがようやく口をひらいた頃には彼女の握りしめたスカートはくしゃくしゃになっていた。 「榎本さん、ありがとう。下駄箱に手紙が入っていた時はちょっと驚いたけど、そうかあの時の子だったんだね。気持ちを伝えるの、とても緊張しただろうし、怖かったと思うんだ。それでも伝えてくれたこと、本当にうれしい。ありがとう。」 私はその先の言葉を聞きたいような、聞きたくないような、複雑な気持ちで見つめていた。 早くなる鼓動をどうすることもできないまま、私は祈るような気持ちでサチの答えを待つ。きっとサチの前で答えを待つ彼女もまた、私と同じような気持ちを抱いているにちがいない。 「榎本さん、ごめん。気持ちは嬉しいんだけど…その気持ちにこたえることはできない。」 その答えを聞いた彼女の目からは一筋の涙が零れ落ちた。 「君がどうこうということじゃないんだ。その…私にはずっと前から好きな人がいる。だからごめん、君の気持ちには答えてあげられない。」 そういうとサチは彼女の涙をすっと指で拭った。 「でも大事な後輩として、見かけたらまた声をかけてもいいかな?」 「はい。もちろんです。」 涙声で彼女は笑ってみせた。
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