とーちゃんじゃなくなる日

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とーちゃんじゃなくなる日

 春の大型連休も後半に差しかかった5月の初旬、3人は近くのファミリーレストランで注文した食事を待っていた。 「正、今日は大事な話があるの」  美優紀がそう切り出す。正は膝の上の手を強くにぎった。時夫の顔も少しこわばっているように正の目には見えた。 「時夫さんね、もうすぐとーちゃんじゃなくなるの」  真剣な眼差しで美優紀はそう告げる。正は唇を噛み締める。そんな正に向かい、時夫は笑いかけた。 「正君は僕のこと、今までとーちゃんと呼んでくれてたね。それは、どうしてだ?」 「それは……」  正は一瞬答えに詰まった後、 「東条だから、とーちゃん」  と答えた。2年という時間が作り上げた2つ目の答えは正の口から喉へと引っ込んだ。時夫は軽く頷くと、再び口を開く。 「僕ね、6月には東条じゃなくなるんだ。中村になるんだよ。苗字がね。だから、もうとーちゃんじゃなくなるんだ」  正はポカンとした表情をしている。 「苗字が変わると言っても正には難しいかな?私は中村美優紀、正は中村正でしょ?そして、とーちゃんは6月から東条時夫じゃなくて、中村時夫になるの」  美優紀が右手で手振りをしながら正にそう説明する。まだピンと来ていない様子の正に美優紀はさらに付け加えた。 「ママととーちゃんはね、結婚するの。だから、とーちゃんはパパになるのよ」  パパになる、という異次元の言葉が正の耳の中で無限大に広がっていく。正は未だに事態を飲み込めずにいた。
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