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帰り道のファミリーレストラン。美優紀の前にはナポリタン、時夫の前には和風ハンバーグ、そして正男の目の前には妖怪のキャラクターが描かれた旗が刺されたオムライスが置かれている。
「よし、食べるぞ!」
時夫がそう言うと、3人はそれぞれフォークやナイフを動かし始めた。
「どうだ?美味いか?」
時夫がそう尋ねると、正はほっぺたにチキンライスの粒をつけながら無言で頷いた。
「でも貴方が野球なんか観るなんて知らなかったわ」
美優紀は笑顔でそう尋ねる。2人は交際を始めてもうすぐ1年になるのだが、デートは映画やカラオケなどほとんどがインドア系のもの。それだけに今回のチョイスはやや意外だった。
「ま、たまにはいいだろ?」
時夫はそう返事をする。
「でも、白の風船、結局使わなかったわね」
「ああ、あれは試合に勝ったときに飛ばすものだからな」
結局試合はあのままズルズルと追加点を重ねられて12対1で9回裏を終え、残念ながら3人の応援は実を結ばなかった。
「正君は、今日の試合、楽しかったかい?」
「風船」
「あ、あの風船か?」
「ママはあんなに早く膨らませられないよ。凄いね」
「お?そうか?褒められちゃったよ」
時夫は少しだけ照れ笑いをした。
夏といえど夜7時を回るとさすがに空は暗くなる。時夫の車は美優紀のアパートへと近づいていく。時夫はアクセルを適度に踏みながら正に語りかけた。
「今日はありがとう。また遊びに誘ってもいいかな?」
「うん」
「良かった。あ、それと、今日は正君って僕は呼んでたけど、呼び方はそのままでいいかい?」
「うん」
「よしわかった。じゃあまた行こうな」
「あ……」
正がそう言って口ごもる。
「どうした?」
「名前、東条時夫でいいんだよね?」
「そうだよ」
「じゃあさ、次からとーちゃんって呼んでいい?東条だから、とーちゃん!」
正がそう言った瞬間、美優紀は少し困った表情を浮かべた。しかし、時夫の笑い声はそんな表情を軽く吹き飛ばしてしまう。
「ハハハ。いいよ。とーちゃんと呼んだってな」
「ホント?やった!」
正がそう言ったそのとき、丁度車はアパートの前に着いた。
「じゃあな」
「うん。とーちゃん。また遊びに行こうね!約束だよ」
「ああ。男同士の約束だ!」
時夫はそう言うと、正と車の窓越しに指切りをした。
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