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一、構太刀
自分の命はきっと短いのだと勝手に思い込んでいる。
地面を踏むたびに、緑だの青だのの色をした甲虫が夜空へと飛び去って行った。
今日も昨日と同じ有り触れた夜。
ただ多分、彼の感得する世の中と云うのは、世の其れとは若干様相が違うはずだ。
近くを流れる川の瀬音に混じって、しょき、しょきと聞こえる。
この世に生まれ落ちた時から、彼の両眼窩にはあるべき眼球が嵌まっていなかった。
もっとも物を見るのに不自由したことはない。
彼が生まれてすぐ母は死んだ。
気づいた時には父も姿を消し気付けば一人。
生きて行くのに困りはしなかったが、常に付きまとう孤独感と、その孤独感を厭う自分の心の弱さに嫌気が差したものだ。
以来十数年生きて来て、普通であればまだ学校だのに行っている年頃だろう。しかし彼のような、見た目も中身も来歴も奇態極まる人間を受け入れる場所などどこにもなく、また彼自身生きる目的を成就させるためにはひとつ処に留まるわけにもいかなかった。
彼は父親を探している。顔も名も知らない。
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