三、毛羽毛現

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「チスイさん。用件はなんだ?」 『以前も申しましたが、鳥辺トモの連絡先を教えて頂きたいのです』 「前にも云ったが、どこの誰とも知らないあなたに教えるわけにはいかないのですよ」 『もう名乗りました』 「いや、そういうことじゃなくて。鳥辺さんはご存じなんですか、あなたのこと」 『知らないでしょうね』  壁に苛立ちが募る。  なんとも人を喰った、慇懃無礼を絵に描いたような対応ではないか。 「だいたいあんた、この番号もどうやって調べたんだ?」  少しきつい口調で壁は尋ねた。電話の向こうからは暫く妙な連続音が聞こえていた。ややあって、その音がチスイが喉で笑っている音だと気付く。 「なにがおかしい?」 『だって壁さん。あなた、御自分が理解なさっているより随分と御高名ですよ。あなたの連絡先くらいは少し探ればすぐに出てきます』  電話の向こうはなおも笑っている。  壁は電話を切ろうと、受話器を耳から離したその刹那、 『今空き室で煙草吸ってます。廃材が多いので、火はきちんと消さなくてはなりませんね』  壁は事務所を飛び出した。     
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