三、毛羽毛現

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 机に前傾するように座り、死んだ目で煙草を燻らせているうち、壁はいつの間にか眠りに就いていた。  電話が鳴っている。  壁は色気づいた齢二百の老女に追い回されるという悪夢から無理矢理意識を引き剥がし、寝惚けたまま受話器を取った。 『ああ。壁、マサルさん』  チスイアギト。 「んん」 『寝ていらした』 「寝てねえよ。あんたはよっぽど暇なのかい? それとも鳥辺に相当ご執心てことか」 『後者です。私は是非とも鳥辺トモと話がしたい』 「理由を聞かせてくれないか。俺相手にここまでするあんただ、それは余程の理由があるんだろう?」 『大まかに云うと、鳥辺さんも段階のひとつなわけですが』  云ってる意味がわからなかった。壁は素直にどういうことだと訊いた。 『物事には段階があるのです』 「だからさ」 『地熱利用。いろいろな会社があるものだ』  電話が切れた。  最後の一言に理解が及ばぬ。壁はずくずくと痛む顳かみを親指で押し、いったい電話の向こうの男はなんなのだと「……」  地熱利用? 「会社?」  最後の言葉はいったい。  チスイは最初の電話で壁に対し伺いますよと云って以来、このビルの一階にある『喫茶アンノン』から電話を入れ、次に二階『映像/ポロロッカ』から電話を入れてきた。 「三階に地熱云々の会社が入っているのか?」  多分そうなのだ。     
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