三、毛羽毛現

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 壁は受話器を取り、アンノンに電話を入れた。具合良く出た店主に尋ねる。  確かにこのビルの三階には、関西地熱利用研究関東事務所という、西だか東だかわからない会社が存在するとのことだった。  時計を見ると夜の十一時を回っていた。壁は遅くに非常識な電話を入れたことを店主に詫び、受話器を置いた。 「すると、だ」  壁は机の上のコーヒーを乱暴にカップに注ぎ入れると、取り敢えずがぶがぶと呷った。  チスイアギトは着実にここに近付いてきている。  ぶるりと震えがきた。  一階、二階、三階。  次は四階、つまりはこの事務所のある階に到達する。 「面白いじゃないか」  遠くで聞こえるサイレン。  音が鳴ることで気付かされる周囲の静寂。 「面白いとも」  壁は煙草に火を点ける。煙をいいだけ吸い込むと肺の底がきりきり痛んだ。  舐めやがってふざけんじゃねえ。追い込んでるつもりか? 「でも、奴の目的は俺じゃない、はずだ」  素直に鳥辺トモの連絡先を教えなかったことに対する逆恨みか。  他人に怨みを買ってばかりの人生で、つまりは壁に対し、悪方向の行動に訴えてくる輩は多い。     
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