55人が本棚に入れています
本棚に追加
/409ページ
壁は受話器を取り、アンノンに電話を入れた。具合良く出た店主に尋ねる。
確かにこのビルの三階には、関西地熱利用研究関東事務所という、西だか東だかわからない会社が存在するとのことだった。
時計を見ると夜の十一時を回っていた。壁は遅くに非常識な電話を入れたことを店主に詫び、受話器を置いた。
「すると、だ」
壁は机の上のコーヒーを乱暴にカップに注ぎ入れると、取り敢えずがぶがぶと呷った。
チスイアギトは着実にここに近付いてきている。
ぶるりと震えがきた。
一階、二階、三階。
次は四階、つまりはこの事務所のある階に到達する。
「面白いじゃないか」
遠くで聞こえるサイレン。
音が鳴ることで気付かされる周囲の静寂。
「面白いとも」
壁は煙草に火を点ける。煙をいいだけ吸い込むと肺の底がきりきり痛んだ。
舐めやがってふざけんじゃねえ。追い込んでるつもりか?
「でも、奴の目的は俺じゃない、はずだ」
素直に鳥辺トモの連絡先を教えなかったことに対する逆恨みか。
他人に怨みを買ってばかりの人生で、つまりは壁に対し、悪方向の行動に訴えてくる輩は多い。
最初のコメントを投稿しよう!