三、毛羽毛現

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 とても食い付くとは思えないが、壁はなんとか話を延ばし付け入る隙を見出すつもりだ。治水は、そんなもの先に教えるほうが負けじゃないですかと当然の言葉を返してきた。 「今はどうせ、このフロアにいるんだろう? あんたは電話をするたび一階ずつ近寄ってきてる。俺を精神的に追い込もうという作戦かい?」 『じりじりとした圧迫は、効果のある方には覿面なので』 「すまんね。俺には空振りだったようだ」 『ええ。でも来た甲斐がありました。鳥辺トモの住所がわかりました』 「……なに?」 『ですから壁、マサルさん、あなたと話すことももうないでしょう』  何か反駁しようとしたその刹那、電話は切られてしまった。  壁は受話器を放り投げて廊下へ躍り出た。左右を見渡しても人影はない。すると奥のほうで、このビルのボロいエレベーターが稼働する音が聞こえた。  走る。  エレベーターホールについた頃にはゴンドラは静かに階下に向かっていた。壁は慌てて階段へと出た。  奴はいったいここへ来て何を見た? 郵便物か?  結局埒が空かなかった故腹立ち半分の空脅しだろうとは思う。思うが。  壁は勢いそのまま一階の扉を開けた。  誰もいない。  しばらく探して回るも誰もいない。  待っても構えても一切の変化はない。  古い病院に備え付けてあるような蛍光管が、点いたり、消えたり、している。  静かな空間に、壁の荒い呼吸が異質だ。     
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