三、毛羽毛現

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 なにもできないが故に気ばかりが急く。  胃がむかつく。胃酸の分泌が人の倍はいいらしい壁は、疲れや空腹がまず胃にくる。  事務所にいつまでもいても仕方あるまい。とりあえず壁は一度帰宅することにした。朝になったらトモのアパートにでも行ってみようと思う。行ったところでどうにかなることではないのかもしれず、はたまたハナから問題など起きていないのかもしれず、右往左往しているのは自分だけなのかもしれないと、壁は鼻で笑った。  携帯電話が鳴った。  咄嗟に表示に目をやると、電話の相手はトモだった。 「も、もしもし?」  トモは酷く事務的な口調で一方的に用件を述べた。内容を要約するまでもない、どうして誰とも知らぬ男に自分の携帯電話の番号を教えたのかという、概ね壁に対する批難である。 「その男はチスイって名乗ったのか? チスイ。え? いや。それよりトモ……あ、いや。と、ともかく、チスイは何の用で電話を掛けて来た?」  それだけは聞いておかねばなるまい。  トモはよくわからないんだけどと前置きしてから、ウルメの連絡先を聞かれたと告げた。 「ウルメって、潤目民子?」  トモは他にいないでしょそんな名字とぞんざいに答える。     
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