三、毛羽毛現

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 壁マサルは潤目民子と過去に関わりがある。云うも憚る恥ずべき過去だ。 「けど、潤目民子はもうこの世には」  いない。出会った時にはもう死んでいて、そして今は姿を消して久しい。  トモは少し苛立たしげに、だからそう教えたわよと云った。 「そうか、わかった。もうその電話には出ないほうが……ああ、そうだな。俺に云われるまでもない」  じゃあ切るからと突慳貪にトモは云う。壁はまだ何か云うことがあるような気がしたが、トモの硬い態度に気圧されて、重ねて謝意を口にしてから電話を切った。  溜め息を吐く。  なんだかとても厭な気分になる。本当に家に帰ろう。  チスイアギトはウルメタミコが最終目的だったのだろうか。  結局壁もトモも通過点、奴に云わせれば段階だったわけで、はたして。  謎は深まり、怪奇好きの壁としては追求したい欲求に駆られるが、 「チスイアギト」  ※  治水顎人。  眺めれば眺めるほど奇妙な名前だと思う。  トモはほとんど牛乳のココアを飲みながら、メモ書きに残った自分の文字を見つつ、そんなことを考えている。  その名前の主から電話があったのがほぼ十分前。     
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