三、毛羽毛現

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 何かの拍子に異世界に迷い込んだのかもしれない。  劇団仲間にもらった、小さなテレビを点けた。  はるか南に発生した台風の情報と、奇妙なダイエット器具の通販番組しかやっていない。  トモはココアの残りを飲み干すと、再度台本に没入した。トモの役はまだまだ端役で台詞も少なく、覚えはほとんど完璧ではあったが、主人公の感情の変化が何度読んでも理解できなかった。 「やっぱりわからない」  どうしてこの場面で声を出して泣く必要があるのだろう?  大の男が嗚咽をもらして慟哭するなどよっぽどのことだとトモは思う。その余程のことをするに見合った状況ではないと思うのだ。  台本初見時トモは脚本家兼主役の男優を掴まえそのことを尋ねたが、物事を訴えるにはそれなりに派手な演出が必要なのだという、曖昧な答えが返ってきたのみ。  トモにはその彼のいう訴えたい物事とやらが泣き叫んでまで他人に伝えるようなことではないと思えてならなかったのだが、本書きは一言、世の中ってのはベタなモノを好むのだと更に理解不能な言葉を重ねられただけだ。  ベタなモノの定義を聞きたい気もしたが、そこまで食い下がる気にもなれず、結局トモは、彼女にしては珍しく有耶無耶なままで終わらせた。  寝転がる。     
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