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上着を着ながら云った。上着を着るのは勿論、人目に付かないようにするためだ。壁はヤだなあ冗談だよと空とぼけている。
「ハラ減ったな。なんかご馳走してくれよ」
「はい……」
「ホントお前、金持ってんのな」
「今更なにいってる」
「悪いな。ビフテキとか食いてえけど」
「ビフ……」
あんたいつの時代の人間だと壁は少し笑った。
「ビフテキなんつって、昭和だよ昭和」
これだから山育ちはと壁は長い顔をさらに長くする。山育ちは関係ねえだろとリョウはもそもそと反駁した。
「まともに学校行ってないからな」
額に浮いた汗を拭いながら呟く。
「学校行ってないことを理由にしては駄目だ」
「駄目か」
「駄目。知識がないことを恥じるのなら学歴云々ではなく、種々学ばなかったことのみを恥じるべきだ。その気があれば山でも海でも学ぶことはある」
「ほう。なんだか含蓄のありそうな言葉だな。墓のセールスやるより宗教作ったら?」
あ、それもいいねと軽い調子で乗った後、墓のセールスはしてないけどねと付け加える。おそらくはこのような軽薄な感じこそが壁の本領なのだろう。
「まあいいや。テキトーに買ってくる」
そう云い残して壁は立ち去ろうとしたのをリョウは呼び止め、煙草を無心した。壁が差し出した煙草を受け取り火を点けてもらう。
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