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「ああ、あの化け物」
壁の声は甲高い。コンクリートの打ちっぱなしの室内では、耳障りなほどよく響く。
「タミコを母親にして、ばかすか仲間増やすつもりか?」
「あんな化け物が沢山増えたら、日本はどうなることか……あんたは人間の味方かい?」
リョウは今度は無言で煙草をせがんだ。壁も心得たもので何もいわず差し出した。
「どうだろうな。ただタミコが気になる」
「惚れたか?」
「鼻へし折るぞ」
リョウは本当にやりそうだ。壁は顔を隠して身を引いた。
「関わっちまった以上ほっとけねえ、それだけだ」
「だからってどうする、もう死んでるんだ。ああ、成仏させてあげようとかそういう?」
リョウは部屋の真ん中に置かれた大きな袋を見た。
紙のタグに『二十代、女』と記してある。
「タミコは構太刀が見初めたことでもわかるように、なんていうかソッチ方面の素養があるんだろう?」
「そっち?」
「なんとなくわかるだろ、そっちの世界だ。構太刀や針女の世界だよ」
「なんとも怖い世界だ」
好んでその世界に片足を突っ込んでおいて壁は抜け抜けとそう云った。あまり懲りていないのかもしれない。リョウはしばらく壁の間延びした顔面を眺めていたが、矢庭に猫と云った。
「猫ォ?」
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