三、毛羽毛現

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三、毛羽毛現

 火のないところに煙を立たせる商売が思っていたより軌道に乗らず、日々の稼ぎは日々の出費とほぼ同じであった。お陰で先月壊れた車の修理ができないでいる。  手書きの筆文字で壁マサル様と書かれた、好みのブランドの新作発表会の招待状も届いていたが、今は物欲を刺激するのは不味いと断腸の思いで捨てた。替わりといってはなんだが、キロ数万円もする牛肉を飽食してやろうと思い、問屋に直接家まで運ばせたのだがその時に限って仕事がばたつき、結局は冷蔵庫の中で腐らせてしまった。  まったく、なにもかもが噛み合ない。  愛車が壊れた日から付き合いはじめた女とも、商売が原因で一昨日別れた。  煙草の吸い過ぎだろう最近矢鱈に肺が痛む。  病院に行ったら行ったで肺以外にも傷んでいる箇所が見つかりそうで、怖くて行けない。  秋も深まり、関東に吹く風もだいぶ冷たい。     
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