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四、有象無象
「あなたは人間は傷つけないなどと仰っているそうですね?」
イタリア製の高級革靴で顔面を踏み付けにして、まるで舞台役者の台詞回しのように朗々とした声で言葉を放つ。
「どうなのです? どうなのです! 私のようなろくでもない人間でもその信念は曲げないと仰られるのですか? ええ?」
ミササギリョウは顔面をいいだけ踏みにじられても何も返さず、ただ苦痛と屈辱に耐えていた。半裸に剥けたその身体は傷だらけである。
満身創痍のリョウと、その顔面を踏みつけにする治水顎人。
そのふたりの様子を戦々恐々とした思いで物陰から見つめる壁マサル。
三人のぐるりには、奇怪極まりないヒトとも獣ともつかぬモノどもの屍体の群れ。
「どうなのです!」
治水は再度叫んでリョウを踏む足に力を込めた。
ごきり、とリョウの顎がずれた。
リョウは血反吐を吐き出しながら、左腕の目玉で周囲の様子を窺った。
視界いっぱいに広がる己が千切って捨てた異形ども。今から半日ほど前、この場所に誘導され、ひとりで殲滅した、この場所に群れ集っていたヒトではないモノたち。
それを集めたのは治水であり、リョウの特殊能力をじっくり観察したいが為の謀だった。
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