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喜ばれぬ門出
雨乞い騒ぎから数日後
五家老のひとりである秋水家老が、怒り心頭の面持ちで目の前の男を叱っていた。
「なにをたわけたことを言うのだ、侍を武士を辞めたいだと、何を考えておる。 ましてや御主は我ら秋一族の本家の総領であろうが、ならぬならぬならぬならぬぞ」
秋水家老の怒りはもっともである。
叱られている男の名は、秋康之進といい、秋家の長男で、つぎの秋一族本家の跡取りである。
今でこそ分家の秋水家が家老を職しているが、元々は秋家が家老職に就いていた。
秋水駿之介は本家分家の立場に則る性格だったので、自分の次の家老にこの康之進をと考えていたのだ。
「秋水様、この康之進、よくよく考えた末の事でございます」
康之進は平伏したまま言葉を返した。
「まえまえから某は侍に向いてないと思っておりました。ですが秋家の跡取りとしての責任もあると思ってもいます。それゆえ、ずっとずっと悩んでいました。しかしながら先日、どうしてもやりたいことを見つけてしまったのです。このまま奉公を続けても何かしら大きな仕損じを起こすかもしれません。そうなれば秋家の名に傷がつきます」
康之進の言葉に、秋水はさらに怒る。
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