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「仕損じなければ良いであろう。御主の力量ならできるはずじゃ。余所見をせず殿の為に奉公すればよいではないか」
「しかしながら……」
両者の互いに譲らぬ言い合いに、その日はまたの機会に話そうということで終わった。
康之進は屋敷に帰って両親にも同じことを話したが、こちらも同じように叱られただけだった。
自分の部屋に戻り、着流し姿で胡座をかき、がっくりと肩を落としてため息をつく。
「兄上、よろしいか」
障子の向こうから縁側にいる弟の問いかけがあった。
「高之進か、はいれ」
二つ下の次男坊が障子を開けて入ると、障子を閉め兄の前に座った。
「母上から聞きましたよ、武士をやめたいなどと言ったらしいですね。何を考えているのです、兄上は秋家の跡取りなのですよ」
「お前がいるではないか。私なんかよりお前が跡を継いだ方が秋家は安泰だぞ」
高之進は幼名を文福といい、康之進との仲はよい方である。
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