喜ばれぬ門出

2/3
前へ
/76ページ
次へ
「仕損じなければ良いであろう。御主の力量ならできるはずじゃ。余所見をせず殿の為に奉公すればよいではないか」 「しかしながら……」  両者の互いに譲らぬ言い合いに、その日はまたの機会に話そうということで終わった。 康之進は屋敷に帰って両親にも同じことを話したが、こちらも同じように叱られただけだった。  自分の部屋に戻り、着流し姿で胡座をかき、がっくりと肩を落としてため息をつく。 「兄上、よろしいか」 障子の向こうから縁側にいる弟の問いかけがあった。 「高之進(たかのしん)か、はいれ」 二つ下の次男坊が障子を開けて入ると、障子を閉め兄の前に座った。 「母上から聞きましたよ、武士をやめたいなどと言ったらしいですね。何を考えているのです、兄上は秋家の跡取りなのですよ」 「お前がいるではないか。私なんかよりお前が跡を継いだ方が秋家は安泰だぞ」 高之進は幼名を文福(ぶんぷく)といい、康之進との仲はよい方である。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加