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御世話になりました
翌朝、康之進はひとつの書状を懐に登城した。
勘定方の務めを終えると、秋水家老に面会を求め、とある部屋で会う。
秋水はすでに苦々しい顔をしている。たとえどう説き伏せようとしても、絶対認めない姿勢だった。
「康之進、何度言っても勤めを辞めることは相成らんぞ」
「それがその、少し風向きが変わりまして」
康之進は懐から書状を取り出すと、秋水の前に出した。
「これは」
「昨夜、父上とも話したのですが、私の熱意が通じまして、ならば家督を高之進に譲ればいいだろうと話がまとまり、私は家を出ることになりました」
「な、なんだと! そんな馬鹿な」
「秋水様には、私が話しても信じて貰えないと思いまして、父上にその旨を書いていただきました」
秋水は、慌てて書状を開き目を通す。確かに秋家の当主の字で、家督を高之進に譲る旨が書かれていた。
「高之進は出来る男です。目をかけてやってください、お願い申し上げます」
康之進は深々と頭を下げると、御世話になりましたと御礼を伝え、帰途に着いた。
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