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康之進は急いで帰ると、今度は家族の前に書状を出した。
「康之進、何じゃこれは」
「先程、秋水家老様よりいただいてまいりました。康之進がそれ程まで言うのなら、高之進に家督を譲るがよい。高之進なら間違いなかろう、上の空で勤めるお前よりましだ、その方が秋家の為になると」
「なんじゃと! いくら家老とはいえ、本家の事に口出しするとは無礼であろう」
「秋水様はそのような方ではありませぬ、分家としての立場をわきまえております。次の家老は本家へと常に考えております、父上も御存知でありましょう」
康之進は平身低頭の姿勢のままで応える。
「その秋水様が、本家大事とよくよく考えての言葉です。何とぞ御聞きください」
康之進の父は書状を取り、中を読むと秋水の字で家督は高之進が継ぐのが良かろう、そうすれば次の家老は本家のものになる旨が書かれていた。
「そうか、秋水がそこまで言うのなら……」
父は康之進を、きっと見る。
「そこまで言うのなら勘当してやる、もうお前は秋家の者でもなんでもない、出ていくがよい」
「ははっ、今まで御世話になりました。これからはただの康之進として生きていきます」
康之進は家族に今生の別れを告げた。
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