空梅雨

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空梅雨

むし暑い日々が続いていた。 この年の梅雨は空梅雨で、白邸領はもちろん、尾張藩、日の本全体が水不足で喘いでいた。 「暑いのう」 さくら姫は城内でくさっていた。領主の姫という立場であるため、誰よりもきちんとした身嗜みでなくてはならないので、誰よりも暑い思いをしていた。 「まさしく[大名は大名なりの暑さかな]ですわね」 御年寄補佐である、みなづきが言う。 「今年はお主の名のとおり、水無月じゃな」 みなづきは筆頭家老である瀬月家の娘で、御年寄の きさらぎ の娘である。その立場と歳も近いというので、さくら姫の守り役ともなっていた。さくら姫の数少ない心許せる人の一人でもある。 「城内の女子衆はどうしている?」 「もちろん、だれています。ですので姫様が凛としているのにだれるとは何事かと叱っています」 みなづきは澄まして言う。 「ですので、姫様は誰よりも だれないでくださいね」
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