空梅雨

2/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
みなづきの言葉に、さくら姫は顔をしかめる。  そうは言ったが、実は目の届かないところで、足を水に浸けて休んでいるのを みなづきは許している。 そうでもしないと、倒れたり不機嫌者同士で余計なもめ事が起きるからである。 そのくらい暑い日々が続いていた。 とはいえ、このままでは さくら姫もまいってしまう。どうしたものやらと二人して思案していたのであった。  白邸城の真北には、[はちりゅう]と呼ばれる大河が流れている。大きな川が三本と、その支流が五本。五本の支流は網目のように流れていて、所々に川島がある。  その水量は多大で、毎年ならこの時期は満面に水面を湛え、河からくる涼風に目を細目たものだ。 その上、尾張藩だけでなく近隣の領の人々の生活をも潤していた。  さらに数年前などは、大雨で堤防が決壊して洪水が起きるほどであった。その時は白邸領だけでなく、尾張藩全体に及ぶ被害がでた。 なのにである。今年はまったく違う。  支流が消え、本筋も例年の半分の量しかなく川底が見えるくらいである。 こんな[はちりゅう]は古老達もはじめてだと口々に話していた。 「こうまで雨が降らないと、なにか不安になるな」 と言うさくら姫の言葉に、 「姫様が仰ると、下の者に不安が移ります。自重なさってください」 と、みなづきは嗜めた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!