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みなづきの言葉に、さくら姫は顔をしかめる。
そうは言ったが、実は目の届かないところで、足を水に浸けて休んでいるのを みなづきは許している。
そうでもしないと、倒れたり不機嫌者同士で余計なもめ事が起きるからである。
そのくらい暑い日々が続いていた。
とはいえ、このままでは さくら姫もまいってしまう。どうしたものやらと二人して思案していたのであった。
白邸城の真北には、[はちりゅう]と呼ばれる大河が流れている。大きな川が三本と、その支流が五本。五本の支流は網目のように流れていて、所々に川島がある。
その水量は多大で、毎年ならこの時期は満面に水面を湛え、河からくる涼風に目を細目たものだ。
その上、尾張藩だけでなく近隣の領の人々の生活をも潤していた。
さらに数年前などは、大雨で堤防が決壊して洪水が起きるほどであった。その時は白邸領だけでなく、尾張藩全体に及ぶ被害がでた。
なのにである。今年はまったく違う。
支流が消え、本筋も例年の半分の量しかなく川底が見えるくらいである。
こんな[はちりゅう]は古老達もはじめてだと口々に話していた。
「こうまで雨が降らないと、なにか不安になるな」
と言うさくら姫の言葉に、
「姫様が仰ると、下の者に不安が移ります。自重なさってください」
と、みなづきは嗜めた。
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