雨乞い

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雨乞い

「雨乞いとな」 きさらぎは何でそんな事をと思いはしたが、 「本当に降ればそれで良し、降らなくても気が紛れますから」 という、みなづきの言葉に納得した。 そして数日が経った。 この日は、白邸城で毎年恒例である暑気払いの夜会が開かれる日であった。  毎月末に催される恒例の労いの会は、日中にやるのだが、夏場は涼しい夕刻から行われる。日の落ちる前の夕方から始まり、城代家老の瀬月の言葉を賜ったあと、いくつかの報告、論功が行われ、宴会にすすみ、一刻半くらいで終わるものだった。 会場はいつも通り、弐の曲輪の屋敷でおこなわれる。 「あれはなんだ」 会場に向かう途中の武士のひとりが言った。  見れば、四の曲輪の真ん中に櫓が立てられていた。どの武士も知らないから少しざわついたが、夜会が始まったので誰も口にしなくなった。 領主の瀬鳴弾正は珍しく尾張城から帰っていた。  水不足はかなり深刻で、領民からの不満が募り小さな暴動が藩内のあちこちで起きており、白邸領だけの問題ではなく尾張藩全体の問題となっていた。  そのため普段は尾張城下に住む各領主は、各々の領に戻り、領民の為に治安をはかるように、藩主から一時戻るように言われたのである。
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