「鈴の守護者は逃がす」

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「紅、どうかしたのか?」  蒼は止まった紅にそう声を掛け、顔を覗き込んだ。彼女は、彼の疑問の声さえも邪魔のようであった。そして、彼女は普段は柔らかく、時に楽しげな色を浮かべることの多い瞳を、彼女らしくない鋭い視線を辺りに投げかけた。 「蒼、黙って・・・。」  今度はルビーの様なその瞳を静かに伏せ、あたたかさの感じられない森にそっと耳を澄ませ、気配を探った。 「・・・みんなが、いない?」  紅はそう言うと、蒼の手をギュウと強く握り締めた。彼女は彼へ不安だ、と伝えるかの様に彼を見つめた。そんな彼女に対し、不安に感じていることは分かったものの、何が不安なのか蒼はよく分からないまま、先程、彼女と同様、辺りを伺うように耳を澄ませた。 「本当だ・・・。何にも音がしない。・・・別の誰かがいるんだ。」  蒼は彼女が不安げにする原因が分かったらしく、そう声を上げた。彼らは互いの顔を見ると、彼女は彼の言葉に同意を示すかの様に同時に頷き合い、奥に歩みを進めた。  季節自体、魔界にはないが、ここは基本的に寒いせいか、木々が枯れ、茶色の絨毯が敷かれている為、歩く度に音が静かな森に響くのであった。 そして、いくら奥へ進んでも全く、ここに住む者たちに一度も会うことがなかった。 歩みを止めずにいると、隣を歩く片割れが小さく震えていることに気が付いた。 「紅、寒くないか?」  蒼は自分とさほど変わらない、双子の妹を心配しつつ森の奥に足を進めている。 「ん、平気。蒼こそ、大丈夫?」  紅は首を傾げつつ、正面から横の蒼に視線を移した、その瞬間、視界の端に人影を捉えた。すぐさま、視線を勢い良く戻し、辺りに耳を澄ませた・・・。  すると、微かながら軽い足音がするのを耳にした。そして、蒼に耳打ちをし、双子はニタリと口元に笑みを浮かべ、二人の武器である拳銃を取り出した。  紅のものはボディーが赤で、『烈火』。蒼のものはボディーが青で、『時雨』。この二つの拳銃は対となっている。普通ならば、二つを一人が使うものだが、彼らは双子。彼ら曰く、『二人で一人』らしく、二人で使っている。それを構えたまま、互いに顔を見合い、小さく頷いた。  そして、ここに来て初めて、二手に別れた。紅はそのまま歩みを進め、蒼は人影を追う様に方向を変えて歩みを進めた。
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