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夢に沈んでいた彼女は、幸せなそれが去った後、水に落ちていくような錯覚に陥った。深い深い水底へ誘われているようだった。
いくら足掻いても落ちていくばかり・・・、それが気持ち悪くて飛び起きてしまった。
「ッ、ハァ・・・ハァ・・・。」
彼女は、急に飛び起きたせいか、心臓がバクバクと激しく脈を打ち、息苦しく感じた。荒い呼吸を整えようと、ゆっくりと深呼吸を何度か繰り返した。すると、気持ちもだんだんと落ち着いてきたような気がした。
夢の内容はうまく覚えていないが、気分の悪い夢ではなかったはずだ。
なぜ、こんなにも苦しいのだろうか、と心の中でそう呟く。考えていても答えが見つかるはずもなく、気分の悪さを振り払うように、ベッドを降りた。
窓辺に立ち、カーテンを勢いよく開けると、朝日が降り注ぐ。その光の心地よさにぐっと背伸びをすると、軽くノック音が静かな部屋に響いた。
「ジュリア、おはようございます。」
ドアの外から彼の凛とした声が聞こえた。ジュリアは返事をしようと口を開いたが、何やらひらめいた様に、ニヤリと口端を吊り上げて笑みを浮かべた。
「・・・・・・。」
いつもなら明るい声が聞こえてくるはずだが、部屋の中から返事がないことに、多少の不安を覚えた狛は失礼します、と声を掛けて、勢い良くドアを開けた。すると、ゴンッと何かがドアにぶつかる鈍い音がした。
なんとなく予想のついた彼は呆れたような目線をぶつかったであろうものへと向けた。予想通り、彼女はドアに頭をぶつけ、痛みから頭を押さえてしゃがみこんでいた。
「・・・起きているなら、返事をして下さい。心配して入って来るのも、予想出来るでしょう。」
彼は呆れたような口調で一気に言うと、慣れた仕草でジュリアに手を差し出した。彼女は彼の手を借り、立ち上がると拗ねたように口を尖らせて言った。
「だって、狛のこと驚かせてみたかったんだもん。」
狛と言われた彼はクスクスと笑いながら、何とも愛らしい答えに更に笑みを深めた。
「・・・まぁ、怪我しない程度に頑張って下さいね。」
彼女は彼の余裕あり気な物言いが好きではなかった。自分が子供だと言われているように聞こえるからである。まぁ、狛が自分の事を馬鹿にしていないことは分かっている。彼の性格、そして第一守護者である彼の立場上、しょうがないことであることも、分かっている。
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