彼の話

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彼の話

善や良、と言う前向きで明るくて、人々に好まれる字があり、そしてそれと殆ど対を成す形で用いられ、人々に嫌われ虐げられている字がある。 悪。または、劣とか、下とか。 だが、善と悪、良と悪、優劣、と常に比較されているかのようなこの二種の文字であるが、ほとんどの人はその意味を深く考えもせずに日常的に用いている。 「わるもの」 「さいあく」 「わるい」 「あく」 「よくないもの」 世の中に溢れている悪という字を意味する言葉は、全て何かを貶めるものばかりだ。 一方で、悪と対を成す良や善と言った字はこう使われる。 「いいひと」 「いいもの」 「ぜんにん」 「さいこう」 不公平だと思わないか。 善や良、という字を冠する者達は殆ど無条件に愛され、万人に好まれちやほやされる。 一方悪、や劣、というような字を一度冠してしまった者達は、前者とは正反対で、万人に疎まれ、迫害され無意味に懲らしめられる。 善や良の者が当然と手にする勝利や成功、名声、勲章など煌びやかなものは一切認められず、与えられるものと言えば粛正、天罰、絶望、日陰、などという物騒なものだけだ。 例を提示しろと言われて、常套句とするのは桃太郎だ。     
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