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悪いものを打ち倒す善人を讃える話はこの世の中に溢れているのに、悪人の栄光を語る物語はさほど存在しない。
存在していたとしても善人の放つ至高の光が生み出す影に埋もれてしまって陽の目を見ることはない。
好んで闇に居きる悪もそりゃあ居るだろうが、暗闇を好まず、日向の暖かさに焦がれる悪も、少なからず居るものだ。
この物語は、絶対的な悪、というレッテルを貼り付けられた者に手向けるささやかなスポットライトとなることを祈るばかりである。
彼には、それくらいの「良いこと」があっても罰は当たらないと、私は信じている。
さて、話題に上った彼の話を始める前に、悪という字について今一度考えよう。
悪という字は、見てわかるとおり、『亜』と『心』という字から生成されている。
『亜』という字は建物の土台。これは墓を造るために地下に四角く掘ったその形を表す為の造形文字。
その下につく『心』は心臓を表している。
即ち、墓に埋まる心臓をこの文字は現していて、墓地に赴いた際の気持ちを表している。墓地に赴いて清々しく思う罰当たりはそうそういないだろう。
墓地の形を図形として現した字が『悪』であり、それに感情を付加したものを『あく』と読むところに始まる。
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