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フォルテラや、残してきた人々のことを心配して泣いているのか、イザークに見放されてしまったかもしれないと不安になっているのか、彼女自身もわからなくなっていた。
しばらく勝手に溢れてくる涙をそのままにしていると、ふと天蓋の向こうが揺らめいているのに気がつく。
侍女が明かりを落としに来たのではない。もっと背の高い誰かだ。
「陛下?」
オリアーナの呼びかけに答えるように、揺らめく影が寝台のほうへ近づき、ビロードの布地をそっとどけた。
「まだ寝ていなかったのか?」
イザークの瞳からはなんの感情もうかがえない。はじめて会った日ですら、こんなふうにオリアーナを見つめたことなどなかった。
話をしたいはずだったのに、彼を前にするとなにも言えなくなってしまう。
オリアーナは、彼の黒い瞳の中に写っているのが泣きはらした顔だと気がついて、思わず目を伏せた。
「昨晩のようなことはもうしない。そんなに怯えなくていい」
「怯えてなどいません」
昨晩のイザークは確かに言葉も態度も乱暴だった。それでもオリアーナは彼の存在を恐れてはいない。
今、怯えているように見えるとしたら、それはイザークにみっともない姿を見られているせいだ。
「あの者はすでに送り返した。バルツァーが手配した監視と一緒だから二度とヴァレンツには入れさせない。残念だったな?」
「残念……?」
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